赤ぼっこのアリ衆
投稿日
2022/05/26
コンビニでおにぎりを六個買い、赤ぼっこでそれを食べている。
地面にはアリがいて、米粒をおすそ分けしてあげたのだけど、そのうちの一粒は大きめのアリが引っ張って持って行ってしまい、草の中に入り、視界から消えた。
まだ米粒は五カ所、目視確認できる。
そのうちの四つにはアリがたかっているが、一つだけ放置されている。
と思いきや、その手付かずの米粒にアリが近づき、少しだけちぎって、もっていった。
同時に落ちてしまったおにぎりの海苔は、不人気だと思いきや、それもまた大きめのアリが引っ張っていき、草むらに消えた。
一つの米粒には、一段と小さなアリたちが群がっている。
どうやらその場で食っているらしい。
小さなアリにとっては、米粒は重すぎるようである。
私の場所は太陽があたりだし、暑くなってしまった。
赤ぼっこには樹木が一本立っていて、それが陰を作り、その陰で私は座っていたが、太陽が移動したらしく、木陰の位置がずれてしまった。
以前目視できる米粒は、四つである。
人が来た。
こんにちはと言われた。
海苔は二つ残っており、そちらは完全に放置されている。
どうやら海苔は、あまり魅力的な食料ではないらしい。
ハチの羽音が聞こえヒヤリとする。
その場で食われている米粒は、だんだんと小さくなっていく。
米粒は小さくちぎられたみたいで、その小さなものを、小さなアリが引っ張っている。
しかしアリたちには、早い者順というマナーは無いらしく、巨大なアリは平気で横取りするし、アリ同士の熾烈な引っ張り合いも行われる。
その場で食う者たちと、どこかに引っ張っていく者たちがいる。
しかし依然として、海苔のほうは不人気である。
その米粒の行く末を、最後まで見守りたい。
自然界に落とした米粒は、アリたちにとってはまさに黄金であり、さながら人間界に一万円札をばら撒いたような活気をうんでいる。
その場で食べられ、どこかに持っていかれ、米粒は徐々に小さくなっていく。
このままでは、米粒は目前から消滅してしまいそうだ。
む、海苔に手を出すアリが現れ、海苔をせっせと運んでいく。
海苔は軽いらしい。
海苔は残すところ、あと一つ。
米粒はいつしか、三つになっている。
やはり、どこかに運ぼうとするやつらがいる。
仲間同士なら良いが、別グループだと引っ張り合いになり、なかなか運搬がうまくいかない。
やがて膠着状態になる。
しかし一つは、それでも動き続けている。
海苔の方はまったく、見向きもされていない。
最後の最後まで見届けたいが、段々とケツが痛くなってきた。
まだまだ米粒は、かなり残っている。
ズボンの上に登ってくるやつもいる。
家に帰ってきた。
本日の登山も、なかなか悪くなかった。
近場の山ということで、赤ぼっこに登ってきた。
下山では道標のない道を進み、民家の庭に出てしまった。
その家の人は丸い目をして降りてくる私を見ていたが、登山者が迷いやすい道なのかそれほど驚くでもなく、「道間違えたんだね」と、優しく声をかけてくれた。
私は、「すみませんすみません」と言いながら、民家の庭を通り過ぎ、国道に出た。
まあ、そうなるのか。
道標のない道がたくさんあるが、そういう道はやはり道標がないだけに、どこに出るのかわからない。
民家の庭に出てしまったり、工事会社の物置のような場所に出てしまったりする。
そのような道は、やはり歩かないほうが良いのだろう。
無名の山の山頂にもいくつか登ってみたが、やはり無名の山は無名の山だけに、山頂には木が生い茂り、一つも景色が良くない。
だからその場でブルーシートをしいて、のんびりしようという気には、到底ならない。
しかしアリたち、ずいぶん米粒に喜んでいたものだ。
米粒というものはアリにとって、大のご馳走らしい。
そんな米粒を腹一杯食べることができる人間に生まれて、実に幸せである。
アリたちのそんな姿を見て、私は米粒を腹一杯食べることができる者として、自分の恵まれた境遇に感謝をしなければバチが当たるなと思う。