蜘蛛の巣・破壊・男
投稿日
2024/10/06
2024年10月6日。日曜日。
まだ、懸命に長生きしているツクツクボウシが、鳴いていたッッッ――
男は、青梅丘陵を、蜘蛛の巣を破壊しながら、歩いていた。
蜘蛛の巣を見かけるたびに、全部、破壊していた。
(なんてひどいことを……)
私は、女郎蜘蛛が可哀想でならなかった。
女郎蜘蛛は、苦労して、蜘蛛の巣を作っているのである。
男はそれを、全部、壊していく。
登山道を塞いでいる蜘蛛の巣を破壊するだけなら、まだわかる。
しかし、歩行の邪魔にならない場所にある蜘蛛の巣までも、男は、全部、破壊しながら、歩いている。
(こいつ、とんでもない悪党だ……)
男は、女郎蜘蛛の生き方が、気に入らないらしいのだ。
そんな風に、蜘蛛の巣を作って、それに引っかかった虫を食うという、そんな女郎蜘蛛の残酷な生き方が、気に入らないらしいのだ。
でも、そんな風にして、女郎蜘蛛は生きてんだよ。
そういうシステムで生きてんだよ。
誰にも頼らず、自分の才覚で、そんな風にして、女郎蜘蛛は生きてんだよ。
それは発明なんだよ。
蜘蛛の巣を作って、そこに虫をひっかけて、それを食って、生きのびていくという、一つの生き方の発明なんだよ。
女郎蜘蛛が代々受け継いできた、生きる手段なんだよ。
「それに文句を言う資格は、貴様には、断じてない!」
私は思わず、そう怒鳴ってやった。
「いや、俺にはその資格がある……」
男は静かに答えた。
「実はね……」
そのとき、天から1億ボルトの雷が、男の頭上に落ちてきた。
ぎゃーーーっ!
男の体は一瞬で炭と化した。
最後の瞬間、男は呟いた。
「俺の前世は、蜘蛛の巣に引っかかって女郎蜘蛛に食われた、カマキリだったんだ――」