2013-02-11
投稿日
2024/10/15
この日Hは、寝る時はヨガの「しかばねのポーズ」で寝ていたのだけど、途中から普通に横向きで寝てしまっていた。
そして朝に、持病の腰痛は起こらなかった。
ずいぶん長々と寝たような気がしたが、時計を見てみると、まだ9時くらいであった。
それからHは散歩に出かけた。
ブラックの缶コーヒーをぐびぐびと飲みながら歩いていた。
すると前のほうで、しっぽの曲がった猫が歩いていた。
猫はひっきりなしに、こちらを振り返りながら、歩いていた。
猫はひどく警戒しているようであった。
歩いては振り返り、歩いては振り返りを、頻繁に繰り返していた。
「猫よ、そんなに警戒する必要はないぞ? 我々は、単に行く方向が同じなだけなのだ。俺は決して君の後を追って、歩いているわけではないのだぞ?」
Hは猫にそう言ってやりたいところだった。
猫は小走りで歩き、そしてこちらを振り返る。
どうやら猫は、目が見える。
だからこちらを振り返る。
そう、猫には目がついていて、それはきちんと機能して、使われているのだ。
それはまさに人間と同じ。
そう、猫と人間は、よく似ている。
同じく目がついていて、それを使って、物を見る。
猫はそう、まぶしそうな目つきで、頻繁に、こちらを振り返っていた。
「猫よ、貴様、もしかして、何か嫌なことでもあったのかい? 人間に何か、ひどいことでもされたのかい? そのしっぽを、曲げられたのかい?」
Hは猫にそう尋ねた。
猫はそれには答えず、歩いては振り返り、歩いては振り返りを、繰り返す。
そしてやがて、横道にそれた。
「やれやれ、とうとう我々の行く道は、違うものになったようだね」
Hは猫にそう声をかけ、猫を通り過ぎた。
そしてまた、猫はこちらを振り返った。
そしてすぐに、猫は腰を下ろした。
そう、猫は安心したのである。
危機は去った。
危険な人間は通り過ぎた。
だから猫は、安心したのである。