槍ヶ岳へ 四
投稿日
2024/11/16
七月二十日。〇時三分。レインコートの上下を着て、さきほどトイレに行ってきた。霧のように、ぱらぱらと、小雨が降っている。
上高地からここ横尾まで来るとき、警戒心ゼロの猿に出くわした。至近距離で、こちらに向かって歩いてきた。まったく逃げる様子がない。
「こんにちは」
と挨拶してきそうな、人間みたいな猿だった。
もしかして襲ってくるのではないかと思って、恐怖を覚えた。猿よりも私の方が二倍くらい高身長。しかし襲われた場合の心の備えが、まったくできていなかった。もし襲われていたら、野生のパワーを発揮され、噛み殺されていたかもしれない。
万が一襲われた場合に備え、戦う心構えを持っておくべきであった。気合いで負けなければ、体は私のほうが大きいのだから、むざむざやられるわけがない。
しかし、いきなり猿が現れたから、本当にギョッとした。まったく人を恐れていない。私からエサでも貰えるかもと、猿は期待していたのかもしれない。
体の大きな猿であった。アルカポネのように貫禄十分。落ち着き払っていた。このあたりは登山者が多い。だから人に慣れているのかもしれない。
刺激しないように気をつけて、恐る恐る、猿をやり過ごした。
ぱらぱらと雨が降っている。〇時二十八分。早く寝るとしよう。そしてなるべく早めに出発したい。
ヘッドライトが不要なくらい明るくなったら、すぐに出発しよう。おそらく四時くらいになれば、充分に明るくなっているだろう。
いよいよ槍ヶ岳山荘まで行く。ここから七時間程度の距離だ。そしてそこから三十分で、とうとう槍ヶ岳の山頂。
無事に山頂まで辿り着けるか。雨や風はどんな具合か。
雨風が酷ければ、槍ヶ岳山荘で待機しよう。そこからわずか三十分で、山頂。でもその三十分が難しいのかもしれない。
過酷だろうか。雨ですべりやすいだろうか。
雨が降っているので、登山者は少ないだろう。
槍ヶ岳山荘で何か食べることはできるだろうか。山小屋の主人はもしかして、鬼のように怖い、雷親父なのではないか。
横尾山荘の人たちは、いたってマイルド。