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第七回 棒ノ折山 二〇一七年八月三日(木)
投稿日
2025/01/23
八月三日、女性一人、男性一人で、奥多摩の棒ノ折山に登ってきた。
女性一人、男性一人、つまり女性一人と私一人である。なんと素敵な女性――MS子との、ツーショット登山という、ラッキー登山に恵まれた。
これは私の中では、大事件であった。今まで二十回以上、婚活イベントに参加したが、一度も女性とサシで会ったことはなかった。食事など、サシでの誘いを断られる確率は、百%だった。
しかし今回は、素敵なMS子とのラインのやり取りで、「サークル登山のための偵察登山をご一緒しましょう」という話になった。何でもMS子は最近ヨガ教室に毎日通っているらしく、ランニングや登山などでの体力作りもしていくつもりのようだった。MS子は、スキューバーダイビングの資格を持っていて、テニスやスキーもしていて、大の旅行好きでもあるような、とてもアグレッシブな生活をしている女性だった。
待ち合わせ場所は青梅線の川井駅。私は、始めての女性と二人だけの登山であったので、とても緊張した。どのように接したらいいのか、けっこう悩んだ。と同時に、MS子との登山がとても楽しみで、数日前からワクワクしながら、その日を心待ちにしていた。
待ち合わせ場所に現れたMS子も、とても勝気な女性だが、私の緊張が伝染したのか、けっこう緊張しているようであった。
私はとりあえず地図をMS子に見せて、登山ガイド気取りで、今回のコースを説明した。どのような道を進むのか、どのくらいの時間がかかるか、トイレの場所などの話もした。
MS子と知り合ってから、もうけっこう長い。今回で会うのは、六回目くらいである。ラインでのやり取りも、ちょくちょくしている。とても明るくて楽しい女性で、話もとても面白い。
歩きながらお喋りをしていると、緊張もほぐれてきた。
川井駅から棒ノ折山の登山口までは一時間三十分くらいだった。登山口から山頂までは、また一時間三十分くらいかかる。登山口からは本格的な山道で、基本ずっと坂道である。けっこうハードで、途中何度か休憩を入れながら、山頂を目指した。
山頂に到着すると、MS子が、「やったー、到着!」と、大きな声で叫んだ。すると山頂にいた人たちが驚いた顔をして、一斉にこちらを振り返った。
なんでもMS子は以前に棒ノ折山に登ろうとしたことがあるらしく、そのときは雨のため、登山を断念したとのことだった。しかしずっと登りたいと思っていたらしく、念願かなって棒ノ折山の山頂に到着することができ、とても嬉しそうだった。
天気は曇りだった。山頂は霧がかかり、景色はほとんど真っ白だった。しかし食事をしている間に、少し霧も晴れ、良い眺めも見ることができた。
山頂でしばらく過ごしたあとは、白谷沢というところを通って、下山した。この白谷沢がとても素晴らしい道だと人から聞いていたので、とても楽しみにしながら下山した。なんでも沢登りのような道が続くとのことだった。
白谷沢を進む前に、岩茸石という巨大な石の前で、しらばく休憩した。その石の前で、スマホで写真を何枚か撮った。岩茸石の上に登ってみようかとも思ったが、雨で少し濡れていて、すべってケガをしてしまいそうだったので、それは断念した。
そしてウワサの白谷沢である。これがまた、とても面白い道だった。浅い川の中を進むような感じである。アクロバティックな場所がたくさんあり、ロープで下に降りたり、進むルートを探しながら、浅い川の中を歩きつつ、すべって転んでしまわないように気をつけながら進んでいく。
川の水はとても冷たく、綺麗だった。岩と川の中を進む白谷沢の道のり、危なくて、ひやりとすることが多かった。しかしMS子は、「この道、楽しい!」と言って、喜んでいた。
気をつけないとすべってケガをしてしまうような道なのだが、川と岩のその道のりはとても気持ちよく、癒し効果満点であった。川苔山の道のりを彷彿とさせるような、岩と川の道のりだった。
そんな沢も過ぎ、ようやく名栗湖に到着した。ここまで来ると、もう登山は終わったようなものである。MS子はまた、「やったー!」と叫び、私とハイタッチをした。そして、棒ノ折山の登山の成功を祝った。
あとはさわらびの湯で、ゆっくりお風呂につかり、その後ビールを飲むという楽しい時間が待っている。
と思いきや、さわらびの湯のバス亭に到着したときは、すでに十七時二十一分になっていて、そして飯能までの最後のバスが、九分後の、十七時三十分だった。だからさわらびの湯に入っているヒマは無い。大急ぎでお手洗いだけを済ませ、バスを待つことになった。
バスは四十分ほどで、飯能駅に到着した。
「これから軽く飲みませんか?」とMS子に提案してみたが、登山でかなり疲れたようで、それは見送りになった。駅のホームでMS子と別れの挨拶をして、家に帰ってきた。
MS子とはもう何度も会っていたが、今まであまりじっくりと話す機会は無かった。しかし今日は、たっぷり話をすることができた。そしてMS子の意外な一面や新しい魅力も、とても多く見つかった。
MS子は私のことを、「こんなにしゃべる人とは思わなかった」と言っていた。確かに私はとてもたくさん喋った。そして、今まで知られなかった私の弱点というか、欠点というか、そういったものを、たくさんMS子に知られてしまった。
今までは私は、MS子に、「落ち着いた大人の男性」、みたいに思われていたようだった。しかし、実は全然そんな人間ではなく、その真逆の人間であることが知られてしまった。
だからMS子に嫌われてしまったのではないかと、心配になった。しかし別れた後、ラインで、「また登山しましょう」と言って貰えたので、安心した。
女性と二人だけで会うなんてことは、婚活イベントに何度も出て、たくさんの人とライン交換したにも関わらず、今まで一度も無かった。それが今回、一緒に一日中登山をするという大ラッキーに恵まれた。「登山をはじめてよかった」と、心から思った。
この調子で関東の山だけでなく、北アルプス、中央アルプス、南アルプスと、たくさんの山を知り、登山を通じて楽しい交流がたくさん出来ると良いなと思った。