登山サークル アウトドアチャイルド

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高尾山と解説板ハンター
投稿日
2022/04/23
今月で今の仕事は終了する。
来月から無職、無収入になってしまう。
そのことを考えると、不安で仕方がない。
そうなると、一円の出費さえも惜しんでしまう。
実際に一円も出費をしない日も、増えてきている。

今の職場では、私は週に四日、働かせていただいていた。
そしてこのたび、「週に五日働かせてほしい。それがダメなら、契約は終了にしてほしい」と主張したのだけど、残念ながら、「週に五日はダメです。では仕方がありません。契約は四月で終了でお願いします」と、あっさり言われてしまった。
残念だ。
極めて残念だ。
職場では、「いつも助かっております!」とか、「あなたは、とても優秀ですね!」などと、ことあるごとにおだてられ、褒められて、それを言われるたびに、ひどくバカにされているような気になってしまい、いつもムカムカしてしまっていた。
で、そんなに毎回私を褒めているくせに、週五日勤務にはしてくれないのである。
もちろん正社員になんか、絶対にしてくれないのである。
で、逆に言えば、週に四日なら、まだ働かせてもらえたのだけど、でもそんな調子で、すごくバカにされている感じで、要するにこれは完全に、飼い殺し状態になってしまっていた。
つまりそれはどういうことかということ、ここでずっと働いていると、他では通用しなくなってしまう。
ここでおだてられ、長々と働いていると、もう他では通用しなくなってしまう。
そういう危機感を、常に覚えていた。
それで週五日勤務にしてくれと言ってみた。
もし本当に私が必要とされているのであれば、週五日勤務にしてくれるはずである。
しかし実際は、「週五日勤務は、ダメです」と言われてしまった。
それはつまり、「あなたにかける予算は、週四日までです。それ以上の予算は到底かけることはできません。つまりそれがあなたの商品価値ということです」と言われてしまったのと、同様の話だった。

まあとにかくそんな具合で、今の仕事は、今月で終了になる。
残すところ、勤務はあと三日のみである。
来月からは無職、無収入になるということで、流石に不安になってしまい、昨日は酒を浴びるように飲んでしまった。
そしてぶっ倒れるようにして、眠ってしまった。

そして今日、朝起きた。
不安、恐怖、絶望。
灰色の人生。
そんな悲しい思いを払拭させるため、私は一体何をすればいいのか。
そう考えたとき思い出されるのは、霊気満山、高尾山の、あの優しい、暖かい、すべての不幸を忘れさせてくれるような、あの包容力。
自然たっぷりで、小鳥が囀る、あの楽園。
あの山のことが、どうしても思い出されてくる。
しかしもう来月から無収入になってしまうため、今はもう一円も余計な出費はしてはいけないところではあるが、それでも高尾山に行って、運動不足を解消して、健康状態を良くすることは、自分にとって、とても必要なことのように思えた。
そのため私は、今日もしっかり高尾山に登ってくることにした。

まずJR高尾駅まで移動して、そして駅前のファミリーマートで、お茶、スパイシーチキン二つ、北海道メロンパン二つを購入して、それを食べながら、高尾山に向かって歩いた。
それらを全部食べ終えた後は、家から持ってきた、カルビーの「堅あげポテトうすしお味」の、ビックサイズのやつを、ぼりぼり食べながらまず、高尾梅郷遊歩道を歩いた。
その遊歩道は、とても気持ちのよい遊歩道である。
お花がたくさん咲いている。
ポテトチップスを食べながら、その道を歩いた。
そのように美味しいものを食べながら、自然の良いところを歩くのは、とても快適で、気持ちの良い体験であった。
私はみるみる元気になってきた。
そして灰色だった人生が、だんだんと薔薇色に思えてくる。
なーに仕事が終了しても、心配はいらない。
他に仕事をみつければいい。
それだけのことである。
多少の貯金はあるので、すぐに次の仕事を見つけないホームレスになってしまうという、そのレベルの危機的状況ではない。
一、二ヶ月程度ならのんびりしてても構わないくらいの、多少の貯金は持ち合わせている。
だからそんなに怖がらなくていい。
だんだんとそんな風な、楽観的な気分になってくる。
しかしついこないだまで、私は積極的に男女の出会いの会に参加していたのだけど、もう男女の出会いの会への参加も、完全におしまいだ。
何もかも終了だ。
ご婦人たちは高収入のお金持ちが好きだというのに、私のような50間近で無職になってしまって、貯金だって数ヶ月で尽きてしまうような、微々たる額の貯金しかないとなると、もうなにもかもおしまいだ。
良い人をゲットするなんてことは、到底不可能であると、断言できる。
それに関してはもうほんとうに、何もかもおしまいだ。
そんな思いが胸をよぎり、ついつい俯いてしまう。
俯くと、そこには以前私が、〝ホワイトフェアリー〟と名付けた、この世のものとも思えぬほどの美しい花が目に止まり、私を慰めてくれる。
その花の本当の名前は、〝イチリンソウ〟というのである。
なんとも美しい花である。
ニリンソウという花もあるが、ニリンソウよりもイチリンソウのほうが、大きいようである。
その二つの花の姿は、とてもよく似ているようだ。
高尾梅郷遊歩道を歩き、沢に立ち寄り、手と顔を洗った。
そして沢の水を、少し飲んでみた。
すると元気が湧いてくる。
なーにまた次の仕事を見つけ、そしてまた出会いの会に、再び参加すればいい。
なんといっても、「数打ちゃ当たる」というコトワザもあるではないか。
だから世の中にはきっと、貧乏な男が大好きという、金持ち女子なんかもゴロゴロいるに違いない。
例えばドイツのメルケル首相のような、小池百合子知事のような、そんな女傑が今のご時世、ゴロゴロいるに違いない。
そんな女性と知り合えば、まだだまチャンスはあるはずだ。
私を養ってくれるような、経済力のある女性との出会いも、期待できる。
そう思うと、ますます元気が湧いてくる。
高尾梅郷遊歩道が終わって、今度は蛇滝コースで、高尾山の霞台に向かって、登っていく。
その途中で、「千代田稲荷大明神」という神様を祀っている、稲荷神社があったので、そこに立ち寄り、しっかり拝む。
なんかしらんけど、拝んでおけば得することはあっても、損することは一切あるまい。
悪いけど、お賽銭はゼロ円である。
そもそもかなり老朽化している神社であったが、人がちゃんと管理しているのだろうか。
木の鳥居などは、かなりぼろぼろの状態になってしまっていた。
その神社に登っていく階段で、私は「かたつむり」を見つけた。
おお、かたつむり。
食べられるのだろうかと、ふと思う。
食べられるだろう。
しかし、食べないでおく。
私は別に、かたつむりを食べなければいけないほど、飢えているわけではない。
今日はもう、スパイシーチキン、北海道メロンパン、ポテトチップスを食べて、満腹になっている。
かたつむりは階段にいると誰かに踏んづけられるかもしれないので、私は仏心を出して、横の土のところに、かたつむりを移動してあげた。
さて、稲荷神社にも立ち寄り、どんどん先に進む。
蛇滝コース。
昔はこのコースが、高尾山の表参道だったらしい。
蛇滝の修行場では、〝青龍大権現〟という神様を祀っている、お堂があった。
ちなみに琵琶滝の修行場のお堂では、〝不動明王〟を祀っているらしい。
それを確認して、登っていく。
ぜえぜえいいながら、重い体をせっせと運んでいく。
汗をたっぷりかく。
これは身体に良さそうだ。

高尾山薬王院では、飯縄大権現が祀られている。
もともと薬王院では、薬師如来が祀られていた。
行基という人が薬王院を作って、高尾山を開山した。
しかしその後、薬王院はすたれた。
薬王院は、没落した。
それを復活させたのが、高尾山の中興の祖、俊源大徳である。
俊源は飯縄権現を〝感得〟して、飯縄権現を薬王院の御本尊として、薬王院を復活させた。
そしてそれが、今の大パワースポット高尾山の、始まりになった。
俊源が飯縄権現を〝感得〟したとは、一体どういうことだったのか。
おそらく、以下のようなことが、行われたのだと思う。

俊源は高尾山薬王院の復活を目指して、〝不動明王八千枚護摩供秘法〟という、厳しい修行に励んでいた。
そんなある日、俊源は霊夢を見た。
その夢の中に飯縄権現が出てきて、以下のように俊源に言った。

「われこそは、飯縄智羅天狗なり。いつも修行、大義である。ぬしの信心、しかと見届けた。この地にわれを祀るがよい。ぬしの心願、かなえたもうぞ」

それを聞いて俊源は喜び勇んで、飯縄大権現を高尾山薬王院の御本尊として祀り、その庇護のもと、今に続く高尾山薬王院の礎を、築いたのである。

そのようなことが起こったのだと思う。
それがつまり、俊源大徳は飯縄権現を〝感得〟したということの、意味なのだと思う。

と私は、蛇滝コースを登りながら、飯縄智羅天狗のセリフを、一生懸命考えていた。
そして今回、この私の妄想を、お披露目させていただいた。
さてそのようにして、霞台に到着した。
それからしばし山頂方向に歩き、そして浄心門のところから、三号路に入っていった。
そして三号路で、山頂付近まで歩いた。
それから五号路の合流地点まで行った時、せっかくなのでと思い、五号路もぐるりと一周した。
ずっと気になっていた、「江川スギ」の解説板も、しっかり読んできた。
それから、高尾山の山頂に到着した。
そして高尾山大見晴園地から、景色を眺めた。
ここから富士山が見えることがあるが、今回も富士山は隠れていた。
すると後ろから若者二人が歩いてきて、「あー今日は富士山、見えないね。本来は見えるんだけどね」などと、発言した。
やれやれ。
違うのだ。
基本この季節、富士山はなかなか見れない。
私はここ最近、五回くらいは連続でここからの風景を見ているが、晴れていても、富士山が見えたことは一度もない。
やはり富士山が見えるのは、空気が澄んでいる冬場だけであり、通常は、春はなかなか、ここから富士山は見れないものなのだよ。
なにか、本来は見える、だ!
いい加減な情報を、発言しないでもらいたいものだな!
まあいい。
とにかく下山である。
山頂でソフトクリームが食べたかったが、節約のため、我慢する。
登る前にファミマで買っておいたほうじ茶を全部飲み干し、そしてトイレの前の飲める水で、空のペットボトルに水をなみなみ補給する。
さて下山は、四号路でおりていく。
四号路を進む。
解説板を見かけるたびに、しっかりとその文章を読む。
三号路も、四号路も、とても気持ちの良い道だ。
そしてまた霞台付近まで移動して、このまままた下山も蛇滝コースで下山して、帰りもまた高尾梅郷遊歩道を歩こうかと思ったが、せっかくなのでと思ったので、二号路もぐるりと一周してみることにした。
そして二号路で見かけた解説板も、しっかりとチェックした。
高尾山の多数設置されてある解説板、もしかしたら全部チェックしてしまっているのかもしれない。
画像はスマホで撮影して、パソコンの外付けHDDに大量に保存してあるので、一度全部高尾山の写真を、すべて見直してみようか。
それもまた面白そうだ。
というわけで、二号路もぐるりと一周して、三号路に合流したところから、再び浄心門の前に出た。
そこからは、一号路で下山した。
その途中、〝城見台〟という場所があり、ベンチもあるが、眺望はまったくない。
景色は樹木で塞がれている。
樹木が伸びる前は、そこからの眺望はよかったのかもしれない。
それと気になっていたいくつかの場所もチェックしてきた。
一号路に、〝万惣大師〟という場所があるらしく、それは高尾山ガイド本で紹介されていた。
石仏の並んだ場所、とのことなので、まあここのことだろうなという場所は、しっかりチェックした。
しかし、〝万惣大師〟という名称は、どこにも書かれていないようだった。
それと、〝布流滝〟という滝も、一号路の名所として紹介しているガイド本もあったが、現在はその滝は、もう無くなっているようだった。
私が見ているその本は、2012年に発行されたもののようなので、もうその当時からは状況が変わっているのだと思う。
まあそんな具合に、下山した。
どうでもいい話ではあるが、「森の小さなハンター」という解説板を見かけ、その中で「オサムシ」という虫が、カタツムリを食べているイラストを目撃した。
オサムシは、ミミズとかカブトムシの幼虫とかも食べるらしい。
それも、ばりばり豪快に食べるらしい。
しかし時にはそんなオサムシも、人間に踏んづけられたり、カエルに飲み込まれたり、テンからガリガリ貪り食われたりなどしてしまうようだ。
まさに食物連鎖。
まさに弱肉強食。
などと思いながら、一号路を下り切った。
そこには、「とんとん地蔵尊」という、お地蔵さんが立っている。
そのお地蔵さんは、本を片手に持って、笑っている。
どうやら「とんとん活動」みたいなことを行っている人たちがいて、つまり高尾山の昔話を、話して聞かせるという活動をしている人たちがいて、そしてそういう昔話の本も、どうやら出版されているらしい。
高尾山とんとん昔話、みたいな名前の本が、出版されているらしい。
それもしっかりと、読んでおきたいところである。

さてそんな風にして、今日の登山も終了した。
なかなか充実した登山だった。
登山後は、立川の本屋に行って、三千円分、本を買ってしまった。
そして家の近くのスーパーで、美味しそうなものを大量に買ってきてしまった。
本来は一円の出費も惜しまなければいけないような、節約生活をしなければいけないのに、登山をするとついつい気持ちが大きくなってしまい、なにもかも、「なんとかなるさ」という、楽観的な心が生まれてくるようである。
まったく登山というものは、心にとっても体にとっても、とても健康に良さげなものだなあと、つくづく思う。
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