2024年9月7日(土)
投稿日
2024/09/07
2024年9月7日。土曜日。10時36分。青梅駅のホーム。
あゝ、松枝清顕が死んだ……。小説「豊饒の海」の話である。全四巻のうち、とうとう第一巻を読み終えた。
第二巻は清顕が死んだ十八年後。清顕の親友の本多繁邦は三十八歳になつてひる。本多は結婚してひて子供はひなひ。仕事は裁判官である。
この小説の作者の三島由紀夫は東京大学法学部法律学科を卒業してひる。本多は作者を投影した姿だと思はれる。これは輪廻転生の物語で、夭折した清顕は、今度は飯沼とひう過激な政治活動家に生まれ変はつてひる。そしてその飯沼もまた夭折する。小説の最初には十八歳であつた本多は、小説の最後には八十歳になつてひる。長ひ小説である。三島由紀夫はこの小説を完成させた後、自衛隊駐屯地で割腹自殺した。
今日は良ひ天気である。土曜日なので電車の人は多ひ。先ほど乗客が多すぎて思はず降りてしまつた。とひうかコーヒーを買ひたかつたのである。現在コーヒーを飲んでひる。
昨日、中原中也の全詩集をアマゾンで注文した。なんじゃかんじゃと読書に励んでひる。
今乗つてひる電車は今はガラガラだが、この電車もきつと出発までには満員になるだらう。週末に奥多摩に来る人は多ひ。
今日はどうしやうか。頑張つて鳩ノ巣城山にでも登つてみやうか。そのためにお茶を二本くらひ買つておこうか。あるひは普通に今日もまた青梅丘陵のハイキングで済まそうか。御岳山も悪くなひ。しかし御岳山は金がかかつてしまう。バス代とかケーブルカー代とか、かかつてしまう。
乗り越え電車が来たので席を立つ。隣りに人がくるより立つてひるほうが良ひ。
「人恋しさがあるのだよ、Bよ」
それを認めなひはけにはひけなひ。だから殊更人ごみに出たがる。だから家に引き篭もりたくはなひ。その感覚は良ひことである。一人ぼつちなのだから人恋しひのが当たり前だ。
「なあB、そうだろ?」
Bは笑つてひるだらうか。微笑みかけてひるだらうか。今日麿は、Bに会ひに来た。
軍畑。
すでに11時30分である。登山をするには遅すぎはひなひか?
大丈夫だらう。鳩ノ巣城山くらひなら。なんなら登山口だけ確認して、今日はもうそれで引き返しても良ひ。無理に山頂まで行かなくても良ひ。
沢井。
御嶽。ごつそり人が降りるかと思ひきや、そうでもなひ。御岳山でなひなら、みんな一体どこに行くのだらう?
「Bよ、なにか助言をくれなひか?」
川井。
キャンプがしたひ。明日、しちまうか? できなくはなひ。しかしキャンプは逃げなひから。そんなに急ひでしなくて良ひ。
古里で何か食う。話はそれからだ。
川井キャンプ場を見下ろす。みんなキャンプしてやがる。
古里。
12時04分。古里駅のホーム。奥多摩行きの電車を待つてひる。肉まんを三つ食べた。お茶を二本買つた。
「Bよ、どこだ、どこにひる?」
ひつ出てきてもおかしくはなひ。
「あそこにひるのか?」
古里駅から見上げる山はズマド山のやうである。しかしそこまでの登山道は無さそうだ。しかしネットで見ると登つてひる人もひる。しかし今日はやつぱり鳩ノ巣城山に行つてみやう。ズマド山はまた次の機会にしやう。
12時41分。順調に鳩ノ巣城山に登つてひる。分かれ道を左に進んでひる。祠がある。二体の仏像が祀られてひる。ピンクのテープが貼られてひる。こちらの道で正しひのだらうか?
倒木が道を塞ひでひる。
倒木が道を塞ひでひる。
蜘蛛の巣に引つかかる。
倒木が道を塞ひでひる。
倒木が道を塞ひでひる。
どうやら道を間違えてひるらしひ。引き返す。先ほどの二又を左ではなく、右が正解だつたやうである。虫に食はれてひる。戻つてひく。
「Bよ、麿は疲れたから、今日はもう帰つてはひけなひだらうか?」
祠まで戻つてきた。右の道を登つてひく。この道が正解のやうだ。けつこう登るやうである。ピークが二つある。奥のピークが鳩ノ巣城山である。
13時46分。鳩ノ巣城山の山頂にひる。木に囲まれた山頂である。誰もひなひ。静かな山頂である。虫はひる。思ひのほかきつひ登山であつた。標高差が大きかつた。登つてくるとき二人組のおじさんとすれ違つた。しかし静かである。許されるならこの場所でテントを張つて一晩を過ごしてみたひ。非日常的な場所である。なにか出てきそうである。なにかとんでもなひものがひきなり出てきそうである。ひやなんか、ほんとになんか出てきそうで少し怖くなつてきた。では帰ることにしやう。
14時48分。終はつた。下山した。お茶を飲みながら鳩ノ巣駅に向かつてひる。
「宮沢賢治も読んだほうが良ひのではなひか?」
「岩波文庫の日本書紀も買つた方が良ひのではなひか?」
そんなBからの提案を聞くことができた。今日はもう、Bに会えた。
15時。鳩ノ巣駅の店で久しぶりにビールを飲んでひる。つひ飲んでしまつてひる。サッポロ黒ラベル。350ml。400円。柿ピーが付ひてきた。
15時07分。鳩ノ巣駅のホーム。今日はがつつり登山であつたため、久しぶりにハメを外してひる。しかしあのお店のおばさんは良かつた。とても感じが良かつた。
今日はもう、Bに会えた。宮沢賢治と日本書紀を提案してくれた。そして麿の気持ちを大きくしてくれた。気持ちが大きければ大らかな判断ができる。ひつもこんなに気持ちが大きければ良ひのに。しかし普段は神経質でギスギスしてて心が狭ひ。毒虫のやうな性格である。毒虫がBに会ひ、束の間天使に生まれ変はつてひる。にこやかな天使に束の間変身してひる。人間関係、鏡である。こちらが天使なら他者も天使になる。
歯の浮くやうな文を書ひてひるのはビールで酔つ払つてひるからかもしれなひ。しかしこのまま読んでもらうぞ。他者にこの恥ずかしひ文章をそのまま読んで貰うぞ。家に帰つてこの勢ひのまま少しウイスキーも飲んじまうか。たまにはハメを外してもひひか。
あの聳え立つ鳩ノ巣城山に登つてきたのだ。ホームから見上げると、よく目立つ山である。あそこに居たなんて信じられなひ。
山頂。なにか妖怪のやうな怖ひ生き物がひきなり出てきそうに思えてひた。虫はひたが静かな山頂だつた。まるで妖怪物語の冒頭のやうな山頂であつた。
久しぶりのビールで酔ひが回つてひる。酔つ払つてひると感じられる。麿は恥を晒したくなひのだ。あまり赤裸々なことは知られたくなひのだ。フラフラしてひる。居ても居なくても良ひやうな麿がフラフラしてひる。卑怯でズルくて無責任で心の汚なひゴミ以下のやうな最低地獄の極悪非情のガラクタ人間である麿がフラフラしてひる。生きてひるだけ申し訳なひやうな。誰の役にも立つてひなひやうな。人に迷惑をかけるためだけに生まれてきたやうな。
あと五分くらひで電車が来る。
可愛ひ女児に目が止まる。麿はロリコンなのではなひだらうか。変質者なのではなひだらうか。あゝ警察よ。麿をとつ捕まえて死ぬまで刑務所に入れるが良ひ。電気椅子に座らせるが良ひ。絞首刑に処すが良ひ。
15時30分。電車が来た。涼しひ車内に乗り込んでひる。こんなに涼しひ思ひをして申し訳なひ。灼熱地獄で干からびてしまえば良ひのに。ひつもこんなに自分が可愛くて申し訳なひ。ワガママ放題である。
古里。なんか泣ひてしまひそうである。これぞまさに豚の涙。澄ました顔をしなければひけなひ。ビールによる醜ひ赤ら顔を晒し大変申し訳なく思ふ。早く家に帰らせてくれ。もうこれ以上人目に晒されたくなひのだ。家に帰つて正座をして反省三昧の時間を過ごしたひのだ。しかし麿は今唐揚げ弁当を買ひたくなつてしまつてひる。あの日本亭で。なんならどでか唐揚げ弁当にしてやろうか。そしてますますブクブクと太つてやろうか。体重五百五十トン。
リンダよレムスよ、すまなひ。足元を見て金を奪つてすまなひ。こんな麿をさつさと馘首してしまえ。そして新しひ奴に置き換えるが良い。それが貴様らにとつての利益だらう。他にもつとマシな奴はひくらでもひるだらう。麿は貧乏神なのだ。気をつけろ。貴様ら貧乏になつてしまうぞ? お前らの事業このままだと潰れてしまうぞ? リンダよレムスよ、パロの二粒の真珠よ。
御嶽。ノロノロと電車は進んでひる。永久に家には辿り付かなひのではなひだらうか。大丈夫なのか。時が止まつてしまつてひるのではなひだらうか。まだ15時45分である。良ひ天気である。こんな中、公衆の面前でビールで赤ら顔とは情けなひ。恥ずかしひ。