野菜を食べよう
投稿日
2024/09/16
2024年9月15日。
拝島。
可愛い女子高生三人組が、電車の中で三人並んで、熱心に化粧をしている。
お人形さんのような可愛らしい顔である。
ちらちら女子高生を見てしまう。
賑やかにおしゃべりをしている。
キャッツアイのような、絶世の美人の三人組である。
まるで花のようである。
『キャベツのある幸せ』
正道は飢えていた。
最近は団栗と草の根しか食えないような有様であった。
このままでは餓死してしまう。
そう思い、彼は泣いていた。
そこに天使が舞い降りた。
「やあ、正道くん。食べ物を持ってきてあげたよ」
正道は飛びついた。
天使が持ってきてくれたのは、なんと、フレッシュ生キャベツだった。
「おいしい! 抜群においしい!」
正道は泣きながら、キャベツを貪り食った。
「シャキシャキしてて、とっても美味しいよ!」
それは久しぶりに口にした、まともな食べ物であった。
「おいしい! おいしい! ほっぺたが落ちちゃう!」
正道は幸福だった。
食糧難のこの時代、みんな虫とか食ってるこの時代に、彼だけなんと、キャベツを食えた!
彼はこの上なく幸せだった。
そして彼は悟ったのだ。
幸せとは、キャベツを食べられるということ。
それすなわち、幸せである。
正道は今、それを悟った。
(完)
……キャベツが家に残ってしまっているから、仕方なく、キャベツを食べている。
本当はポテトチップスが食べたいのである。
しかしポテトチップスを食べるのを我慢して、先に、キャベツを食べている。
早くキャベツを食ってしまわないと、キャベツが腐ってしまうので、仕方なく、キャベツを食べている。
あと、人参も残っている。
早く食べないと、人参も腐ってしまう……
2024年9月16日。
月曜日。
小作駅のホーム。
「ごめん、やっぱムリだわ」
会長に、会社を辞めることを告げた。
歩子もいた。
喧嘩の強い、太尊もいた。
太尊に虐められたのだろうか。
仕事は結局、務まらなかった。
挫折した。
それは、すべてを集約しているような夢だった。
その結果、今の、情けない彼がいた。
助けてくれる優しいリーダー。
リーダーも、単にそれを演じているだけだった。
リーダーもまた強い人間ではない。
リーダーリーダーと唱える事で、かろうじてリーダーをしているが、それはすぐに、崩れてしまうかもしれない。
容赦なくもがいている。
それはきっと彼だけのことではないのだろう。
大なり小なり、みんな同じで、みんな自分の問題で、もがき、悩み、迷っているのだろう。
それはきっと、みんな同じなのだろう。
しかし弱音とか本音とか、基本、他者には見せないものなのだ。
みんな見栄を張って、幸福なふりをして、生きているのだ。
軍畑。
だからみんな、奥多摩に癒されに来るのだ。
おお、良い眺めだ。
良い山だ。
沢井駅の手前。
あれは、幸せの鐘展望台、愛宕神社の奥の院だ。
それを彼は、ジオグラフィカで確認した。
あの山容を見て、みんな心が洗われる。
家に人参が三本残っている。
人参を早く食べてしまわなければいけない。
人参を美味しく食えるための小話を、また作ってはくれないか。
昨日のキャベツの話は、なかなか良かった。
おかげでキャベツ、全部食えた。
あんな感じで、今度は人参バージョンで、何か作ってくれ。
『人参のある幸せ』
料理家の正道は、新しい料理を探していた。
彼は料理家として一流ではなかった。
しかし一流になりたいと願っていた。
そのために新しい料理を作る必要があった。
そのために彼は新しい食材を探していた。
まだ誰も知らない食材。
どの料理にも使われたことのない食材。
そんな食材を毎日探していた。
そんな彼の耳に、「人参」という名の食材の噂が飛び込んできた。
誰も見たことのない、幻の食材。
滋味あふれる、独特の味わいの食材であるという。
健康にも抜群に良いらしい。
そんな夢のような食材が、果たして本当にあるのか?
彼は半信半疑であった。
しかし彼は探した。
何年も探し続けた。
そしてとうとう人参を見つけた。
人参は、険しい山奥の、秘密の洞窟の奥にあった。
彼はとうとう、それを食べる機会に恵まれた。
「美味い! 人参、最高に美味い!」
美味しい人参を食べ続ける正道は、誰よりも幸福だった。
(完)