幼虫の命を救った
投稿日
2024/09/17
夏の一日、青梅丘陵のハイキングを終えて、アスファルトの下り道を歩いているとき、彼は、灼熱の道端に、甲虫の幼虫が転がっているのを発見した。
幼虫はまったく動かなかったが、色艶を見ると、まだ生きているように見えた。
彼はその幼虫をつまみ、日陰の土の草むらに、移動してあげた。
幼虫は、白くて、まんまると太っていた。
それはいかにも美味しそうだった。
もし彼が餓死しそうな程に空腹であったなら、彼はその幼虫を食べてしまったことだろう。
しかし彼は幸いにも、それほど飢えてはいなかった。
そのため優しく、幼虫を助けた。
しかしそれは彼が飢えていないから――恵まれているから、そんな風に幼虫に優しくできたのである。
もし彼が飢えていたら、幼虫を食っていただろう。
灼熱のアスファルトに転がっていた甲虫の幼虫。
そのまま放って置いたら、日に当たり続け、干からびて死んでいたか、あるいは、鳥にでも食われていただろう。
彼はそんな幼虫を、日陰の土の草むらに移動してあげて、その小さな命を救った。
そんな彼は、優しいのか?
あるいはただ飢えていないから、そんな風に優しくできただけで、飢えていたら、食っていたに違いないのだから、だからそんな優しさなんて、所詮、偽物なのではないか?
彼は、考え込んでいた。