登山サークル アウトドアチャイルド

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<<「小説家志望」
セブンイレブン奥多摩古里店
投稿日
2024/09/18
電車は軽快に走っていた。
次は二俣尾であった。
彼は呑気に大あくびをした。
電車の中の乗客たちは、お互いに無関心であった。
「ああ、誰か俺と仲良くしてくれる、優しい女の人はいないかなあ……」
彼は呻くように呟いた。
来る途中で、何か考え込んでいるような、暗い表情の女性を目にしたのである。
「犬がお互いの傷を舐め合うように、俺と仲良くしてくれないかなあ……」
その女性を思い、彼は、そう思った。
今日はとても良い天気であった。
雄大な山容の風景は、彼の心を慰めていた。
彼は常に慰めを求めていた。
毎日慰めを求め、奥多摩に繰り出していた。
彼は実に女々しい男であった。
人から尊敬される要素は「零」であった。
しかし彼は人から尊敬されたいと、強く願っていた。
尊敬され、チヤホヤされたいと、強く願っていた。
そのために小説家になりたいのである。
別に書きたいことなんてない。
なにを書いたら良いのかも分からない。

電車は御嶽駅で停車していた。
あと二駅で、古里駅であった。
古里駅のセブンイレブンの店員さんたちは、天使のように優しい人たちであった。
店員さんたちはいつも笑顔で、彼を迎えてくれていた。
そこはまさに、本当の「ふるさと」のようであった。
温かい我が家に通うように、彼は古里のセブンイレブンに通っていた。
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