登山サークル アウトドアチャイルド

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<<「高尾山幻想譚」
雲取山で遭難か、遭難以外か(1)
投稿日
2024/09/20
一匹の、登山初心者がいた。
彼は、四十代の、独身男であった。
登山、覚えたてであった。
高尾山の婚活イベントで、登山に目覚めてしまったのである。
そこで山ガールに遭遇し、山ガールとお近づきになるべく、登山を始めたのである。
彼は、箔をつけたかったのだ。
そのために、東京都でもっとも高い山――雲取山に、目をつけた。
「雲取山に登ったのですか? すごいですね!」
彼は、山ガールから、そんな風に言われたかった。
そのため彼は、まず、昭島の、モンベルストアーを訪れた。
そして、まず、テントと寝袋を購入した。
(雲取山だかなんだか知らんが、テントと寝袋と食い物と水さえあれば、どこでも無敵だろうが、ふふふ……)
彼は、大胆不敵に笑っていた。
初心者の彼の頭には、ヘッドライトの文字はなかった。
懐中電灯の文字もなかった。
地図もコンパスも、もちろん持たない。
つまり彼は、有資格者であった。
遭難者になるための、有資格者であった。


ある朝、奥多摩駅から、或る莫迦が、バスに乗り込んだ。
彼は、鴨沢バス停まで、移動した。
そこから雲取山に登ろうというのである。
地図もコンパスもない。
スマホの地図アプリもない。
あるのは、テント、寝袋、食べ物、水、だけであった。
山荘の予約もしていない。
山頂まで何時間かかるか、知らない。
事前になにも調べていない。
(どうせ道標があるのだから、それを見ながら登れば良いのだ。何も難しいことはない)
彼はそう考えていた。
ちょろっと登って、ちょろっと下って、それから四谷三丁目の友人のラーメンを、食いに行こうと思っていた。
「よお、久しぶりー。おいら、きたよ?」
と、ラーメン屋の友人に、会いに行こうと思っていた。
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