ナイフのジェネレーション
投稿日
2024/10/03
2024年10月3日。
木曜日。
13時12分。
みずほ銀行ATMコーナーの前で、順番を待っている。
二台ある機械の一台が、使えなくなっている。
今日は生憎の雨である。
13時21分。
小作駅のホームにいる。
今日もまた、ハイキングに行こうとしている。
先ほど、小太りの、明るい表情をしたお姉さんが、彼の顔を覗き込んで、「すみません、お掃除です」と言って、ATMコーナーの中に、入ってきた。
それは実に、明るい表情であった。
彼のほうは、暗黒の表情をしていた。
接する者すべての心に、暗黒を注ぎ込む彼は、まさに暗黒大魔王であった。
人と人は影響し合って生きている。
人と付き合えば付き合うほど、お互いがお互いに似てくるものだ。
長年連れ添った夫婦なんかは、お互いそっくりになる。
だから圧倒的に明るい人間と付き合えば、圧倒的に明るくなれる。
圧倒的な暗黒大魔王である彼と付き合えば付き合うほど、その者は、暗黒世界に飲み込まれるだろう。
それはまさにブラックホール。
グルル……。
彼は低く唸りながら、暗黒の飲料を飲んでいた。
それは猿田彦珈琲監修の、冷たい暗黒飲料であった。
それは二十種類の麻薬が入っている、極悪な飲料であった。
13時39分。
青梅駅のホームで、なにか悪事を働くべく、哀れな犠牲者を探している。
子供たちが小鳥のように飛び回っている。
ネズミを狙う猫のように、彼はそれを狙っている。
(お前たちを誘拐してやろうか? ぐふふ……)
まるで蜘蛛の巣を張った女郎蜘蛛のようである。
餌がかかるのを待ち構えている。
そんな彼は昨日、青梅丘陵に棲む本物の女郎蜘蛛に対して、迷惑行為を働いている。
その蜘蛛の巣に、カマキリが引っかかっていたのである。
自力では脱出できそうになかったカマキリを、彼は逃した。
そして可哀想な女郎蜘蛛から餌を取り上げた。
彼はカマキリの味方をした。
莫迦な奴である。
蜘蛛に親切にしておけば、地獄で蜘蛛の巣を垂らして貰えるというのに……。
彼は豪快に、暗黒飲料を飲み干した。
そして電車がやってきた。
暗黒魔王はするすると、蛇のように乗り込んでゆく。
さて今日は、どんな悪いことをしてやろうか。
ワクワクしながら考える。
悪いことほど面白いことはない。
法律は破るためにある。
暗黒魔人の彼は、悪いことばかりをする。
生粋のワルである。
ナイフのように尖っている。
(勝手に山の中でテント泊でもしてやろうか。ふふふ……)
不敵に笑っていた。
13時56分。
そろそろ奥多摩行きの電車は動き出そうとしていた。
彼はこれから、古里駅のセブンイレブンを強襲してやろうかと考えていた。
肉まんを全部買い占めて、肉まん好きの連中を、がっかりさせてやろうか?
あるいはもう、このままハイキングをした方が良いだろうか……。