特別な存在
投稿日
2024/10/09
「おい君、知ってるかい? 分子よりも原子よりも原子核よりも陽子よりも中性子よりも、素粒子は小さいんだぜ? そして人間の体は、すかすかの隙間だらけなんだぜ?」
得意げな〝彼〟の声が聞こえてくる。
「この鉄の壁だって、おんなじ事さ。結局、隙間だらけなんだぜ?」
そういう〝彼〟の声が、厚い鉄の壁の向こう側から、こちら側に移った。
私は仰天した。
「すげえ、あんた、幽霊みたいだ……」
どうやら〝彼〟は、鉄の壁をすり抜けた。
「ふふん。前世ではオイラは普通の人間だったのだが、今世では特別な存在に生まれ変わったのさ」
「特別な存在……? もしかしてあなた様は、霊的な存在の方なのですか?」
「まあ、そんな感じだ」
〝彼〟は適当に答える。
「じゃあ、もしかしてあなた様は、人間にご利益を施すような、偉いお方なのでしょうか?」
「ふふふ、さあ、どうかな。貴様はもしかして、この俺様に、何かお願いごとでもあるのかね?」
「あります! 僕、彼女が欲しいです!」
「ほお、そうかそうか。なるほどね。じゃあ縁結びのご利益でも施してやろうかな。ふふふ……」
〝彼〟は偉そうに云う。
そこに一陣の風が吹いた。
すると〝彼〟の声は聞こえなくなった。
どうやら遠くに飛んでいってしまったらしい。
(ああ、そうか……)
私は理解した。
すでに〝彼〟から説明して貰っていた。
特別なのは〝彼〟よりも、素粒子生物の声を聞き取れる、この私の方であった。