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飯縄様の授けた縁結びのご利益を無下にした
投稿日
2024/10/10
2022年4月。48歳の独身男のラインに謎の女性――麗華からの連絡が入った。誰だか分からない女性である。私は婚活イベントで、あまりにもたくさんの女性とライン交換をしすぎてしまっていた。ライン交換できる女性は全員とライン交換していた。後日みんなを集めて飲み会をするのである。だから私はとにかく手あたり次第に女性も男性も、ライン交換できる人は全員とライン交換していた。そう、男性ともがっつりライン交換していた。だから変な顔をする男性もいる。なんで婚活イベントで男同士がライン交換するんだ?
事情を説明する。
「私が幹事しますから、後日みんなで集まって飲み会しましょう。今日一日では縁がなかった人でもまた会うと意外な魅力が見えてくるかもしれませんよ?」
そんな風に説得して私は手あたり次第に婚活男女を集めていたものだ。だからラインが来ても誰が誰やらよく分からないことが多い。しかし何はともあれイベントで知り合った後には絶対に飲み会をするので、覚えていない女性ということは、要するに飲み会の誘いを断った女性であるということだ。せっかく飲み会をセッテイングしてあげたというのにそれを断ったということは、婚活のやる気がない女性であるということだ。そんな女性にはお金も労力も使いたくない。
謎の女性――麗華とのラインのやり取りは、以下のようなものだった。
「ご無沙汰しています。最近登山してますか?」
「はい、勿論してますよ! 麗華さんは登山してますか?」
「はい、私もしてますよ! ちなみにGWにみんなでどこかに登りに行きません?」
「いいですね! 麗華さんとぜひお会いしたいです」
「あ、ごめんなさい。私は参加できないんです」
などという、わけの分からないやり取りであった。まったく覚えていない女性と、さも覚えているようなフリをして、頑張ってラインのやり取りをしてあげたというのに、なんだそれ? 自分は参加しない登山に人を誘うとはどういう了見だ? 私は不審に思った。「この人ヘンだよ!」と思ってしまった。それでそっと麗華をラインから削除した。麗華の最後のメッセージに返事を出さぬまま削除してのけた。
しかし考えてみると、もしかしたら麗華は私の運命の女性であったのかもしれない。麗華からラインが来たのも一つの縁である。もう二百回以上も高尾山に登り、薬王院の御本尊である飯縄大権現に縁結びのご利益を祈り続けている私である。その飯縄様が麗華という運命の女性を授けてくれたのかもしれない。万能の飯縄様のお考えを人間ごときが理解できるわけがない。人間は飯縄様が授けてくださったご縁を、ただ一途に大切に取り扱わなければいけなかった。それを愚かにもぞんざいに扱ってしまった。なんたる失態か。
「あ、ごめんなさい。私は参加できないんです」
これが麗華の最後のメッセージであった。
「えー、麗華さん来ないですか。それは詰まらない。じゃあ僕も行きません。なんと言っても僕は麗華さんと会いたいんだから」
「あらあら、そうなんですね」
「はい、そうなんです! じゃあ今度二人だけで御岳山に登りませんか?」
「お誘いありがとうございます。嬉しいわ。じゃあぜひご一緒させてくださいね」
などという展開もありえた。そして麗華に会ってみたら、すごく美人ですごく性格が良い女性だったかもしれないではないか。いや、きっとそうだろう。そんな有り難い機会を、私は逃した。
(愚かな人間め。せっかく縁結びのご利益を授けたというのに……)
飯縄様も呆れているだろう。
(だからお前はダメなんだよ)
そう言われてしまっているだろう。