私はすでに死んでいる。今は後裔の守護霊として、その者の毎日を見守っている。
　そんな私のもとに、恐ろしい知らせが届いた。今年の死亡者リストの中に、私が守るべき者の名前が記載されていたのである。
　私は驚いて、すぐに死神に抗議した。
　彼はまだ四十七歳である。まだ若い彼が、どうして死ななければならないのか。健康状態には、なにも問題は無いはずだ。
　それに対する、死神からの短い返事が届いた。
　今年の冬、ホームレスになった彼は、ヤケクソになって万引きした酒で泥酔し、公園のベンチで凍死する。これは運命である――
　凍死？
　ちょっ……ちょっと待ってくれ。確かに彼は無職である。このままずっと仕事が見つからず、とうとうホームレスになってしまうというのか？
　そんなこと、私は認めない。彼には稼ぐ能力はある。ただ、良い機会が無いだけだ。
　よし、わかった。ならば私は、〝金運上昇〟のご利益を授ける御前神様に、彼のことをお願いしてみよう。もしかしたら偉大なる御前神様が、彼を悲惨な運命から、救ってくださるかもしれない――

　2021年3月18日。奥多摩駅に向かっている。これから奥多摩の御前山に登ってこようと思っている。しかし御前山は、なかなかきつい山である。散歩感覚で登れる山ではない。俺は基本的に、散歩感覚で登れる、軽めの山にしか登らない。なのになぜ、今日俺は、きつい御前山に登ろうとしているのか？
　最近、御前山が気になって仕方がないのだ。気になり過ぎて、御前山に登ってしまわないことには、何も手につかない。御前山に、ひどく呼ばれている気がするのだ。
　電車で移動中。少し腹が減ってきた。しかしゼリー飲料とチョコレートを持ってきてるので、問題ないだろう。水分もペットボトル二本分ある。それだけあれば大丈夫だろう。
　奥多摩駅に到着。
　バスに乗って、奥多摩湖まで移動。
　さあ、登山開始である。