御前山のご利益(2)
投稿日
2024/10/26
登山を開始している。
先ほどから、六十五歳くらいの男性と、やたらと顔を合わせる。
登山中に、その初老男が後ろからやって来た。
先に行って貰った。
初老男はサス沢山のベンチで長々と休んでいた。
追い抜いた。
また後ろから初老男がやってきた。
また先に行って貰った。
もう二度と初老男と会わなくて済むように、長く休み、ゆっくりと山頂まで登った。
山頂で初老男は長々と休憩していた。
再び追い抜いた。
御前山避難小屋でも会った。小屋の個室トイレに入っていると、初老男がガタガタとドアを鳴らした。
「あれ? 使えねえじゃん……」
そう呟いていた。
使えないのではなく、俺が中に入っているのである。
俺は個室トイレから出た。
初老男はトイレの入り口付近で、身繕いをしていた。
ふと俺は、この道で合ってるのかどうか、不安になった。だからいったん引き返した。
道は間違っていなかった。
再び避難小屋に戻ってくると、ちょうど初老男が個室トイレから出てきた。
(ああ、もううんざりだ! いったい何回このジジイと顔を合わせるのだ!)
心中でそう叫んだ。
一瞬、小屋でしばらく休憩してから出発しようかと思った。しかし初老男も小屋で休憩するかもしれなかった。だから先に進むことにした。
トイレの前で身繕いをしている初老男の前を、通り過ぎた。
初老男のほうが歩くスピードが早い。再び、初老男は後ろから近づき、追い抜いた。
そして俺は今、下山途中のベンチに座って、これを書いている。だいぶ時間が経ったので、初老男は、だいぶ先に行ったはずだ。
しかし初老男は頻繁に休憩しながら歩く。だからまた出くわす可能性がある。
この感じだと、バス停でも会うかもしれない。そしてバス停に並んで、長々と一緒にバスを待つかもしれない。
それはとてもイヤなので、最悪、バス停から奥多摩駅まで歩こうとかと思っている。