槍ヶ岳へ 一
投稿日
2024/11/15
私は在宅勤務でウェブプログラマをしている。勤務時間は平日の九時から十八時まで。そのうちの一時間は休憩。
しかし最近はめちゃくちゃだ。昨日は酒を飲みすぎて、酔っ払って、一日中ぶっ倒れていた。まったく仕事をしていない。そして今日もまた、まったく仕事をしていない。これはまずい。仕事をする気に、まったくならない。
在宅勤務なので、仕事をさぼっても、会社にはバレない。
もう二十時である。これから少しでも仕事をしようと思っていた。にも関わらず、こんなものを書き始めている。
会社からの連絡はまったくない。私もまったく連絡しない。
会社と依頼窓口の件で揉めている。私の仕事の窓口は社長のSである。しかしSは窓口をしたくないらしい。Kという女に、いきなり窓口を変えた。
それは契約違反である。仕事の窓口はSという取り決めで契約している。
しかしSはそのルールを一方的に破った。会社のグループチャットで、いきなりKが話しかけてきたのである。そして間髪入れずにSから、「不明点はKに聞いてください」とメッセージが送られてきた。
不愉快な話である。依頼窓口はSであると取り決めをしている。そのルールが破られた。
それからは執拗にKが話しかけてくる。しかし私は返事をしない。Kは窓口ではないからだ。
窓口でもないKに執拗に話しかけられ、非常に不愉快になった私は、会社のグループチャットから勝手に退出した。完全なる仕事のボイコット。あまりにも不愉快すぎたので、衝動的に退出した。
本来であれば退出する前に、
「窓口でない人から直接話しかけられるのはルール違反なので、一旦グループチャットから退出させて頂きます。窓口のルールは厳守でお願いします」
と、一言断りを入れるべきであろう。
しかしSのルール違反は頻繁に起こっていた。だからもううんざりしていた。もう、いちいち説明もしたくなかった。いい加減にしろと思った。
それから三日間、会社から連絡は来ない。私も連絡しない。仕事は突然終了。そんな状況になってしまった。
堪忍袋の緒が切れた。さすがに仕事はこれでおしまいだ。会社のグループチャットから勝手に退出した。それは完全な職場放棄。一方的に会社を辞めたと見なされても仕方のない行為だ。
しかし窓口はSなのだから、勝手にKに変更した、Sの方が悪い。Sは何度もルールを破って、私を混乱させる。もううんざりだ。
(終わりなら終わりで、もういいか……)
それならそれですっきりする。解放感を感じる。もう二度と不誠実なSの相手をしなくても良いと思ったら、とても気持ちが楽になる。
しかしまたチャットアプリから連絡があった。なんと、退出したはずのグループチャットからである。
Sが勝手にまた私をグループチャットに加えていた。そこから私にメッセージを送っていた。
Kからの激怒のメッセージも来ていた。Kは私に無視され、激怒していた。話しかけても無視される。返事が返ってこない。それは確かに腹が立つだろう。
しかしKは窓口ではない。Kが私に直接話しかけるのはルール違反である。
「気にしなくていいから、直接やり取りして」
KはSからそう指示されているのだろう。
Sはふざけた奴である。私はSにきっぱりと言った。
「窓口のルールは厳守でお願いします。窓口でない人から直接話しかけられるのはルール違反なので、グループチャットからは退出させて頂きます」
今度は断りを入れて、退出した。
それからはSとの直接のやり取りである。
しかしこちらからのメッセージに、返事はいつも一行しか返ってこない。どうやら一行以上は使いたくないらしい。
そしてSからの連絡は途絶えている。メッセージは送られてこないし、こちらからも送らない。そんな厳しい状況になってしまった。
Sはもう私とやり取りする気がまったく無いようだ。契約は今月末まで残っているが、おそらく次の契約更新は無いだろう。
こういう状態であるので、もう仕事をする気にはなれない。
するとSから、
「今月の予定を提出してくれ」
という連絡が来た。言われた通りに提出した。しかしそれに対して、何の返事もない。だから提出した予定で良いのか悪いのか、全然わからない。
もう何をやって良いのかよく分からなくなっていた。だから仕方がないので、自分で決めた予定通りに作業を進めていくしかない。
しかしこれでは給料泥棒である。もうほとんど仕事をしていない。
それでもこれから仕事をする。そうしないと給料がもらえない。
Sからの連絡があろうとなかろうと、仕事の進捗報告は、週に一度くらいはすべきだろう。その進捗に納得すれば、Sは給料を払ってくれるだろう。
しかし今日はもう二十時三十三分だというのに、仕事はまったくしていない。とにかく一週間分の作業だとSが納得するだけの進捗報告をしなければいけない。
「けっこう頑張ってるじゃないか」
Sにそう思って貰えれば、給料を払ってくれるだろう。来月以降の契約更新だって、可能性はまったく無いわけではない。
しかし、さすがにこれだけコミュニケーションが破綻してしまっているのだから、もう厳しいだろう。それでもとりあえず、仕事をしなければいけない。そして進捗を報告しなければいけない。