七月十九日。
　上高地に向かっている。槍ヶ岳を目指している。
　仕事はさぼっている。
　来ようかどうか迷った。昨日の夜、用意だけは万全に済ませた。目覚ましは三時四十分にセットした。
　目覚ましが鳴った時、まだ眠かった。再び寝た。
　結局、起きたのは九時二十分であった。
「これからでも上高地に行けるだろうか？」
　パソコンで調べてみた。最寄駅発十時十五分の電車に乗れば、十七時十五分に、上高地に着けるようだった。
　もう準備は整っていた。財布には五万円が入っていた。服を着て、ザックを背負えば、すぐに出かけることができる状態になっている。
　洗顔をして、服を着て、ザックを背負って、登山靴を履いて、駅に向かった。
　最寄駅に十時前に到着した。コーヒーを飲みながら電車を待った。
　まず立川まで移動した。ここから松本行きの特急電車が出る。
「切符買ってないのですが、特急電車に乗れますか？」
　立川駅の駅員にそう尋ねると、「乗れる」とのことだった。その場合、車内で車掌に特急料金を払うことになる。窓口で切符を買う料金とは違うらしい。ネットで調べてみると、特急料金は二千二百円となっていた。
　特急電車に乗り込んだ。
　全席指定席。座れない。車両と車両の間のスペースに、十人くらいの人たちと一緒に立っていた。ザックは空いている網棚に載せてもらった。
　立川から松本まで二時間。
　しばらく立っていると、車掌がやってきた。
「八王子からですか？」
「いえ」
「立川からですか」
「はい」
　支払った特急料金は二千四百六十円だった。
「切符まだの方いますか？」
　車掌は立っている人たちに聞いてまわっていた。