槍ヶ岳へ 八
投稿日
2024/11/20
七月二十一日。十二時十四分。北アルプスでの二泊三日のテント泊が終わって、帰路についている。
新島々駅から松本駅に向かう、電車の中。
ここからが長い。交通費は鈍行でも、三千六百七十二円かかる。松本から立川までの特急に乗ると、さらに二千二百円かかる。
もう疲れている。早く帰りたい。だから特急に乗りたくなる。鈍行だと、帰るまでに五時間もかかる。
今は、青春十八切符が売り出されている。その値段は一万千八百五十円。五枚組で売られていて、その一枚で、一日鈍行乗り放題だ。七月二十日から、九月十日まで使える。
青春十八切符の一枚は、二千三百七十円という計算になる。つまり普通に鈍行で帰ると三千六百七十二円かかるが、青春十八切符を使うと、千三百二円も安く帰れる。
どうしよう。微妙だ。
青春十八切符を買った場合、はたして九月十日までに、五枚全部を使い切ることができるのか?
北アルプスや立山方面、木曽駒ヶ岳あたりに行く場合は、当然、青春十八切符を使う。それ以外でも、遠出の場合は、青春十八切符を使ったほうが得。
どうしよう。悩ましい。思い切って、青春十八切符を買うか?
青春十八切符を購入した。
家に帰るまでの、長い長い道のり。
茅野行きの電車に乗っている。
この電車で小淵沢まで行き、そこで乗り換え、立川まで行く。小淵沢から立川まで、二時間九分。
立川まで行けば、家まで、もうすぐだ。
最寄駅の小作に到着するのは、十八時五十四分の予定。
今は十三時三十四分。まだまだ先は長い。
家に帰ると、すでに夜だろう。その時間帯なら、スーパーの半額寿司を買えるかもしれない。
卵も買おう。トマトジュース、グレープジュース、牛乳あたりも買おう。
冷蔵庫には納豆入りのすりおろし山芋がある。それをごはんにかけて食おう。そのためには、まずはごはんを温めないと。
卵四つを使って、卵焼きを作るのも良いだろう。カップヌードルも食べる。それでけっこう腹は膨らむだろう。今回の登山で食べ切れなかったチョコレートも、全部食べてしまおうか。
しかし私は毎週登山をしているが、いつまでたっても体力がつかない。きっと体重が重すぎるのだろう。
百七十七センチ、九十一キロ。
体重を七十五キロまで落とせば、今よりも十六キロも体が軽くなるので、きっと体力は向上するだろう。七十五キロに比べると、九十一キロは、十六キロも余分な荷物を持っているのと同じことである。
眠い。
上高地から新島々までのバスの中では、ぐっすりと眠ってしまった。テントの中で充分に寝たつもりだったが、まだまだ疲れが残っている。
上高地の小梨平というキャンプ場には、乾燥機があるらしい。服や下着を水洗いして、乾燥機でそれらを乾かせば、また洗い立ての気持ち良い服を着ることができる。
上高地では、そこで定住することもできるぐらいに、色々と手に入る。
実際に定住しているおじいさんもいる。その人は、上高地の絵をたくさん書いている。その絵描きのおじいさんは、キャンプ場に、家のように立派なテントを立てている。